甘味処

備忘録

いつかの暗闇

後悔ばかりしている。

 

人生を道に例えるなら、小さな一歩を繰り返して何とか進んでいるようなものだけど、行き先を背にして後ろ向きに歩いているイメージで。今まで通ってきた道が、どれだけ離れていても鮮明に見える。何度も反芻しているから、学芸会の台本みたいに、誰が何を言ってどうなったのか分かる。分かるから思い出せて、思い出せるから勝手に映像が流れ込んでくる。目を瞑っても頭を叩いても流れ込んでくる。

たまに余計なことも引きずり出されて、進む力が無くなって、同じ場所で足踏みしてしまう。 足元で砂ぼこりが舞ってお気に入りの靴が汚れる。悲しくなって涙が出て、疲れて眠って少し忘れる。起きて歩こうとするけど靴は汚いままで、それを見てまたひどく落ち込む。

靴の汚れはいずれ、風が飛ばしたり雨が流してくれる。使い古したのなら新しく買うこともできる。でも、後ろ向きに歩く癖がどうしても抜けない。たまに足踏みするのも、気付けばやっているから防ぐことができない。

何度も立ち止まって何度も泣いたのに変わらない、変えられない。頑張ったと思っていたのに努力が足りていない。歩いてきた道のりだけが長くなる。流れ込んでくる映像も増える。

叶えたい夢や目標が無いわけではない。むしろ、ある、ちゃんとある。それを誰かが達成する度に自己嫌悪に陥る。自分は出来なかった、また遅れをとってしまった、それでもやっぱり後ろを向いたまま、過ぎてきた道のことを考えながら、足踏みして靴を汚しては泣く。変わればいいのに変われない、変わらない。頑張りもしない。

 

27年間生きてきて、初めて「死にたい」と思った。

正確には、「生きるのをやめたい」くらい。死ぬのはどうしても怖い。人間が突然いなくなることを受け入れられない。

少しの間、歩いてきた道を戻ることはできないだろうか。掃除して、要らないものは捨てて、大切なものが埃を被っていたら、拾い上げて綺麗にして持って行きたい。そのために、進むことを少しだけ休めないだろうか。

迷惑をかけたのに何も言えなかった人に謝りたい。将来から目を背けて眠りこけているところを叩き起こしたい。間違えたことを認められずに強がって放った言葉を撤回したい。嫌と感じたまま受け入れたことを、ちゃんと拒否したい。知らないままで良いと閉じた本をもう一度開きたい。素直に言えなかった「ありがとう」を伝えたい。人の気持ちも知らないで自慢気になった自分を叱りたい。上手く弾けなくて、八つ当たりして叩いたピアノの鍵盤を撫でてあげたい。愛してくれたのに愛し返せる勇気がなくて突き放した手を、また握りたい。

このままずるずると、後悔を引き連れて歩き続けるくらいなら、全部やり直したい。最初から上手くやっていれば、こうならなかった。こんなはずじゃなかった。こんな自分は、好きじゃない。こんな自分は要らない。

 

そう、今の自分が綺麗じゃないからと、簡単に捨てることができればそれがいちばん楽。でも、その勇気も持ち合わせていない。どこかにひっそり残る、自分を信じたい自分がしつこく、駄目だよ、勿体ないよと語りかけてくる。きっとそのわずかな希望が、崖っぷちに立つ自分を引き止め続けている。だから飛び降りる勇気がない。というのも、ただの言い訳だけど。

悔やんでは泣いてを繰り返してきたのは自分。でもそれを肯定してきたのも自分で、どっち付かずのまま歩き続けてきたのもやっぱり自分。誰かのせいにできればいいけど、この一本道を歩いてきたのは自分だけ。自分が決めて、自分でやってきたのだから、全て自分に帰結する。それすらも情けなくてつらい。また立ち止まる。汚れる。

 

結局、ここまで気付かなかったというのは、幸せなのかもしれない。それか、呑気に生きていたせいで知らなかっただけかも。

眠る前に布団を被って泣いたことはいくらでもあったけど、どうして涙が出るのか良く分かっていなくて。疲れたら寝てしまったし、難しいことは後回しにしていたし。あまり、難しいことではなかったけど。

言ってしまえば、ずっときっかけを待っていた。自分が変わらざるを得ない出来事、どこかの誰かが手を差し伸べてくれて、この泥沼から引きずり出してくれること、過去や未来や、そんなものがどうでもよくなるくらいの天変地異、それを素直に待ち続けていた。ちゃんと前向きに歩けるようになるには、それしかないと思っていた。苦んでいれば、痛がっていれば、気付いてもらえると思っていた。甘えていた。いい大人になるまでずっと。だから駄目なんだ。変われないんだ。

どうしていればどうなるはずだったのかとか、考えたところで何も想像つかないし。ただ今のこの道が合っているとは思えないだけで。進むべき人生があるかどうかも、知らないし、分からない。でも歩き続ける足を止められない。いつの間にかこの道以外は無くなってしまった。

 

諦めたい。でも諦めたくない。

めんどくせ。